XXの名は。
真暗い夜道に家路を急ぐ。
階段だ。
上っているのか下っているのか。
道の両脇にはぼんやりした灯籠。
辛うじて足下が見えるばかり。
階段には一段ごとに
何か文字が書かれていた。
確かに知っているのに読めない文字。
前方には同じく帰路の親子。
母の手には買い物袋。
白菜しいたけにーんじん。
きっとこれから楽しい夕食なのだ。
無邪気にはしゃぐ男児は
階段に書かれている文字を
嬉しそうに読み上げていた。
きっと字が読めるようになったばかり。
親子を追い抜き家路を急ぐ。
相変わらずはしゃぐ男児。
「○△△○×○!」
「◆×◆○○!」
…
子供が字を読み上げる声が聞こえる。
しかしなんと読んでいるか理解できない。
なんと書かれているか読む事ができない。
ふと気付く。
コレは
読(呼)んではいけない
この世にあってはならない者の名だ!
遠くから「何か」がこちらを見ている気配がする。
間違いなく「何か」が機会を伺っている。
…はるか後ろから絶叫する子供の声が聞こえた。
「お母さん! お母さん!」
ダメだ。
本当にすまない。
見なかったことにするしかない。
聞かなかったことにするしかない。
オレにはもうどうしようもない。
「名前」を呼んでしまったのだから。
「ああーッ! あああぁぁーッ!」
暗い夜道に子供の泣き声が聞こえるばかり。